九州大学六本松キャンパスにおける実在建物の耐震実験終了の報告

 

産学官「実在文教施設の加力実験に基づく低コスト耐震補強法の開発」推進委員会

 

中原浩之,河野昭彦,蜷川利彦,小山智幸,山口謙太郎,吉岡智和,小山田英弘

黒木正幸,山本憲司,上瀧今佐美,尾宮洋一,北島幸一郎

 

 地震国である我が国において,多くの学生や教職員が普段使用している学校校舎の耐震性能の確保は,社会的に強く要請されている課題です.しかしながら,全国における文教施設数は膨大であり,その中の「古い建物」の中には耐震性能が乏しい建物も含まれています.ここでいう「古い建物」とは,1981年以前に建てられた建物を指します.1981年は,建築基準法が大きく変わった年で,建物に要求される耐震性能が一段と厳しくなりました.しかしながら,法改正を行ったと同時に,「古い建物」をすべて建て替えるわけにもいかず,多くの「古い建物」が現在も使用されております.

 まず,これらの建物の耐震安全性を判定する方法に,「耐震診断」というものがあります.この診断の結果,安全性に問題がある場合は,「耐震補強」を行うことになります.これら診断と補強設計は,物理学の諸定理に基づく計算により行われますが,計算は常に近似的な値であり,建物が保有する真の耐震性能を定量的に把握するには,そのものを破壊して各種データを収集する方法が望ましいと考えられます.

 現在,九州大学ではキャンパス移転が順次行われており,この度,六本松キャンパスに実在する撤去予定の校舎(3号館および4号館)を対象とした耐震性能検証実験を行いました.4号館校舎(1971年竣工)では,耐震診断による耐震性能評価後に加力実験を実施することにより,現行の耐震診断基準の検証を行いました.3号館校舎(1963年竣工)では,耐震補強施工実験ならびに補強後の校舎の耐震性能を調べる実験を行いました.なお,3号館校舎の破壊実験は国土交通省建設技術研究開発助成金,4号館校舎の破壊実験は福岡県建築住宅センターおよび建設技術情報センターの助成により実施しました.関係各位に,深く感謝申し上げます.

 実験結果の詳しい内容の説明会については,20115月の九州大学創立100周年記念における人間環境学研究院の企画として提案しております.これらの機会に,社会基盤を形成する耐震技術について広く理解を共有することを目指します.

 

 

 

 

写真1 平成22914() に行った実験公開事前説明会の様子.175名の申込みがあり盛況であった.耐震技術への関心の高さがうかがえる.

 

写真2 平成22920() に実験公開を行った4号館校舎の全景.定員85名のうち,162名の応募があった.実大建物の実験の見学は,稀有な機会であることを示している.

 

IMGP3021

写真3 1スパン分を切り取ることで作成した4号館校舎の実験部分.これに水平力を加えて,この部分の耐震性能を調べた.

 

IMGP3039

写真4 4号館校舎の実験終了後の様子.地震を受けた後の状況を再現することができた.この状況に至る水平力と水平変形の関係を計測しており,このデータをもとに耐震性能の評価を行うことができる.写真は,せん断破壊と呼ばれる破壊形式で,建物にとって危険な状況を引き起こす原因となる.

 

写真5 4号館校舎の実験終了後の様子.写真4と比べて,損傷の程度が低い.この理由は,柱と腰壁の間に施した耐震スリットの効果といえる.写真は,曲げ破壊と呼ばれる破壊形式で,せん断に比してより安全な破壊形式である.

 

IMGP3041

写真6 4号館校舎の実験終了後の様子.短い柱の破壊状況.非常に激しい損傷が観測される.こうした短い柱は,耐震補強の対象となりやすく,多くの補強法が提案・研究されてきている.

 

画像 049

写真7 3号館校舎に行った耐震補強の様子.この耐震補強法は,従来にない簡易施工が可能なブレース補強法を採用している.実在の建物に本補強法を適用し,優れた施工性を実証した.

写真8 平成22925() に加力実験を行った耐震補強済み3号館校舎の破壊状況.大変形を伴う繰返し載荷後も,激しい損傷は見られず,本補強法の高い耐震性能改善効果を示している.

 

図1 平成22925() に実施した加力実験より得られた3号館校舎の荷重−変形形関係.縦軸は,載荷した水平力(kN)で,横軸は1階の水平変形を1階の高さで割った層間変形角(1/100rad.)である.このようなデータから,耐震性能の評価を行うことができる.