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大学院人間環境学研究院

Greetings from Dean

研究院長・学府長挨拶
人間環境学研究院長・学府長竹熊 尚夫

人間環境学研究院・学府(人環)は、人間と環境を一体的に捉える「人間環境学のパラダイム」の創出を理念として、1998年に人間環境学研究科として発足し、2000年に研究院と学府に再編されました。研究院は従来の研究分野を基に、都市・建築学部門、人間科学部門、教育学部門の3部門に構成され、学府には教育のために学際専攻として都市共生デザイン専攻と人間共生システム専攻の2専攻、基礎専攻として行動システム専攻、発達・社会システム専攻(後、教育システム)、空間システム専攻の3専攻の5専攻が置かれました。2005年には、臨床心理学分野の実務家「臨床心理士」養成のための専門職大学院「実践臨床心理学専攻」が新たに加わり6専攻の構成となりました。2024年にはデジタル・ビルト・エンバイロンメント(D-Be)部門を新設し、より地域社会と寄り添った、多様な形での社会貢献を目指しています。人環は発足以来、文理融合型の学際的教育研究組織として着実に歩みを進めています。詳しくは「沿革」、「理念・目標」、「カリキュラム・マップ/3ポリシー」をご覧ください。

 

学際的な人間環境学は多様な文化を融合する学問でもあります。現在盛んに取り組まれている文理融合においても、文科系と理科系のサイエンスに関わる目的、論理、アプローチの仕方(方法論)などに違いがあり、融合はまだまだ取り組むべき課題です。小学校から学び始めた知識や方法がまとまっていく中で、そうした世界観や方法の相違が大学においても相互の干渉(対話、協同)を阻んでいるといえるでしょう。しかし私たちは様々な学問文化を学んで来ていますし、生活の中では、既に多様な文化、サブカルチャーが含み混まれた世界で生きています。日本の社会も、古代から近・現代まで多様な文化を取り込み、多様な人々を受け入れ発展してきました。

 

ところが20世紀の日本では、行政、経済、文化・学術面での効率化による発展を遂げるなかで、逆に収束へ向かう方向として、世界の文明を取り込む一方で、単一文化論のような誤った理解や思考方法や慣習、制度の統一化、普遍化が目指すべきものとして、ガラパゴス的な発展を進めることにもなりました。けれども、現代はグローバル社会とAIにはじまるICTの情報革命において、多文化・国際環境はますます複雑化し、加えて、SDGsや地球社会課題に対し個々人が考えていく時代にも入ってきています。グローバル化はナショナルを越える次元で統一化を求める力を持ち、これに対し、私たちは再び閉じたナショナリズムといえる反感も感情の中に生じさせてもいます。それでも私たちの生活や社会活動の中に入り込んでくる、グローバルな価値や基準の要求は、社会組織や個人の活動に、従来の枠組としての「蛸壺」からの一方通行的な発信のみの活動を難しくさせており、私たちは、新しい基準や枠組みを「協働しながら」作っていく必要に迫られています。このため、そうした課題に立ち向かえる、ディシプリン(discipline)の壁を越えることのできる学際融合人材や異文化理解、異文化協働での課題解決能力が求められているといえます。

 

学際研究を先導する人間環境学府や研究院は、学際的研究能力と専門的研究能力(ディシプリン)の双方を育成する教育システムを持っています。ディシプリンの修得は、深い探究と視座を持ち、専門分化と機能分担によって細分化された高い専門的能力の習得を目指す教育の仕組みの中で発展し、文明の進歩を生み出してきましたが、一方で、制度として部分的に固定化されてきました。このためVUCAの時代においてディシプリンがそれのみでは新しい世界の課題に対し乗り越え突破する発揮できなくなってきています。現在は、ディシプリンが生涯学習の時代に沿って、形式陶冶(実用的でなくとも、論理性や汎用的能力を習得する)としての意義や役割をも持つことになり、対して、学際性が実用的であり、専門の裾野をつなげる教養(liberal arts)や異分野連携の能力(異分野理解能力)、協働ネットワーキング力を持つと脚光を浴びています。ただし、そうした裾野の広がりは、翻ると、異分野との連携によって、更に高度な専門性へと進展する推進力を得ることにもなります。

 

人環境学府・研究院では、大学院教育や学際研究などで大学院生や教員がその双方に触れて学んでいける様々なプログラムやカリキュラム、研究の仕組みを創ってきました。修士課程や博士課程ではディシプリンに基づく研究方法(methodology)や研究視座(perspective)を並行的に向上させていくことは基礎と応用の関係の変化を伴います。近年の生成AIにはじまる様々なIT・デジタル技術の進化によって基礎から応用への積み上げ式の教育も柔軟に変化することができるようになるでしょう。そこには知識・技術やディシプリンの学び直し(re-skilling)、リカレント(recurrent)な学習、独学を支えるデジタル環境も寄与するものと思われます。こうした変化は従来の教室やクラス・サイズでの学びを変えつつありますが、かつての徒弟方式の「術」を学ぶ対人的な教育も、IT・デジタルができない領域をカバーするものとして組み合わせながら今後も継続するでしょう。そして大学、人環は、高度な研究の質の発展をめざすと共に、地球社会における多様な人々のWell-beingを達成するために様々な教育と研究のあり方を開発し、提供していきます。

 

現在の研究と教育の中で、私たちに求められるのは、VUCA同様、不確定な状況に耐えるだけではなく、そこに飛び込んで「遊べる力」ではないかと思います。人は乳児として未知の中で生まれてきて、成長しながらコトバや振る舞い、感覚を身につけていきます。子どもは「泥遊び」をはじめドロドロとしたものが大好きで、興味関心が離れることがありません。これを「汚い」と退けてしまうのは大人の感覚です。泥漿(slurry) から素晴らしい陶芸が生まれるように、新しいものやアイディアは「泥遊び」の中から生まれてくるもので、そこから「きれい」に見える専門性やディシプリンを私たちは作り上げてきました。制度疲労を感じている現代、私たちは、その「きれい」の元やその先にある「汚く、劣って見える現場」や混沌(chaos, gel)に立ち向かい、地球規模で捉え直すことで、そこに再び魅力を見いだしていくことが必要となっています。

 

人間環境学研究院と学府はこうした混沌とした領域にグローバルな視野を携えつつ、好奇心と遊び心を持って飛び込み、泥臭さをもって、高度な専門性と学際性の双方を生かす研究、学習に取り込んでいける場所です。

 

今後とも挑戦・発展し続ける人間環境学研究院・学府に、激励と応援をよろしくお願い申し上げます。