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大学院人間環境学研究院

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[報告]2024年度「共生社会のための心理学」 テーマ : 心理学における“集団”とは何か-連携・発達・支援の観点から-

Posted at:2025.04.22

日  時 : 2024年 8月 19 日(月) 9:30〜12:00
場  所 : 九州大学伊都キャンパス イーストゾーン E‐105(対面開催)
企  画 : 池田 浩・内田若希・小澤永治・金子周平・古賀 聡・野村れいか・山本健太郎
参加者33名:内教員10名(敬称略)(縄田・池田・内田・小澤・金子・古賀 (聡)・野村・山本・光藤・斉藤)、(学際企画室)久米、学生19名、研究生2名、一般1名。

まず4人の大学院生話題提供者が報告し、次に話題提供者の報告ごとに指定討論者の縄田健悟先生(福岡大学人文学部)からコメントや質問をいただき、その後参加者からの質疑応答が行われた。このような流れで専攻・領域を超えたシンポジウムが展開された。

1. 話題提供: 靳(キン) 佳頴 (行動システム専攻 心理学コース)から「テレワークにおける孤独:職場孤独感の発生メカニズムについて」について次の話題提供をされた。

テレワークが急速に普及し、職場における「孤独」の問題に関心が集まっている。コロナ禍後の現在、例えば週に3日は在宅勤務、残りの2日はオフィス勤務というオフィスワークとテレワークを組み合わせた働き方(ハイブリッドワーク)が多くなった。ハイブリッド環境では、従業員がオフィスに戻り、物理的距離だけでは孤独の予測因子にならない。先行研究では、雑談の少なさが職場孤独感を生むとされている。そこで、日本企業で働くテレワーカー 444名を対象として調査を実施した。次の結果が得られた。1 非公式なコミュニケーション量よりも、コミュニケーション満足度が職場孤独感に大きな影響を与える。2テレワーカーとオフィスワーカーの人数割合は、職場排斥(無視など)や孤独感の発生とは関連していない。考察(1)これまでのテレワーク研究では、孤独の主な要因として雑談の少なさが挙げられてきた。本研究では、コミュニケーション満足度の低さが、少ない雑談よりも孤独につながりやすいことを実証した。(2)欧米の先行研究とは異なり、テレワーカーの割合を増やしても、職場での排斥や孤独感は改善できないことがわかった。この問題は、集団主義的傾向が強い日本ではさらに深刻になっていると言える。

【指定討論・縄田先生】:指定討論者縄田先生からの質問。従来のリアルな職場集団から、現代のテレワークが加えられた職場集団へとどう変わって来て、それが生産性へと影響するのか。
【靳(回答)】:テレワークが加えられた職場集団では関係性が薄くなって排除や無視が起きることがわかった。
【参加者から光藤先生の質問】:媒介変数として収入の要素は入っているか。
【靳(回答)】:収入は入っていない。
【指定討論・縄田先生】コロナ禍が落ち着いてきた今、無理にテレワークにしていた職場も通勤に戻った。現在も、テレワークをしているのは、情報通信やITとかコンサルテーションとか高学歴の業種が多いので、その辺も見て行ったほうがいい。

 

2. 橋井 優介 (行動システム専攻 健康・スポーツ科学コース)から「スポーツにおける集団内での共生とは」について次の話題提供をされた。

集団効力感がチームパフォーマンスに影響するという研究結果もある。スポーツ集団での自己(集団内で発揮されるパーソナリティー)とは、チームスポーツでは状況に応じた役割行動が期待される。スポーツ場面で遭遇する問題への対処に、他者との意思疎通や意思決定といったライフスキルに般化可能な能力が、スポーツには必要とされる。例えばトレーニング参加者の学校における出席率の向上や喫煙率の減少などのトレーニングの効果を説明する報告もあり、チームスポーツによって社会的スキルが醸成されると述べられている。コーチングに必要な要素とは、チームの管理(マネージメント)練習時や試合時の技術指導と模範的な行動である。その際、コミュニケーションは不可欠(言語的と非言語的コミュニケーション)である。スポーツ特有のコツなどを伝えるときにオノマトペなどを多用する場面が多く見られる。有効的なリーダーシップとは、良好なコーチング=指導者と選手の関係性である。

【指定討論・縄田先生】:スポーツ集団としての位置づけを明確にしてはどうか。
【橋井(回答)】:部活動などの集団であれば、師弟関係の要素もあると思う。社会的集団としての側面をもう少し探求したいと思う。

 

3. 荒金光江(人間共生システム専攻 臨床心理学指導・研究コース)から「発達支援における親の会活動:母親・父親の「居場所」として」として,次の話題提供と質疑が行われた。

発達支援における「親の会」活動について報告を行い、親支援をグループで行う意義や課題について論じた。発達支援のニーズをもつ子どものグループセラピーと並行した親を対象とした集団面接により、様々な特性を抱える子どもの理解やグループ体験を通した子どもの成長に気づくことを試みる。しかし、そのような情報共有だけではなく、子育てにおける親の「あるある」体験などの共有や子育てにおける苦労や工夫について互いに承認しあう体験など、親にとっての「居場所」としての意味もあったと考えられる。帰属意識、安心感の保証、主体的で創造的な役割体験などが「居場所」としての親の会活動の重要な機能ではないかと考えた。さらに、子どもに関する情報共有以外のワークについても紹介した。親自身の心身のケア(リラクセイション体験など)、子どもや家族の「強み」に着目できるようなワークについても紹介した。

【指定討論・縄田先生】:企業を対象とした集団、組織に関する研究では、その集団や組織が機能し、そこで働く人のパフォーマンスが向上することが目標とされ、その目標は中期的・短期的なものに整理され、明確化されている。教育における学級集団の研究にもそういう側面もあるように思う。一方、もしかすると、今回の発表のような心理支援や発達支援のグループには、そのようなパフォーマンスの向上という目標設定のあり方がなじまないのかもしれないと想像もするのだが、それでもグループとしての目標や機能の向上をめざす方法の検討、成果の評価について考えるところがあれば教えて欲しい。
【荒金(回答)】:発達支援や家族支援としてもっと意味あるものにしたいと思っている。しかし、一方で様々な特性をもっている子どもや家族のあり方、価値観には正解・不正解はないという思いもあり、子育てや集団での話し合いの方向性を明確にすることで、これまで色んな経験をされてきた親の安心感を失わせてしまう可能性もあるかもしれないという思いもある。迷いながら活動を運営しているのが実情。しかし、よりよい活動にしていくための目標設定や評価については今後も考えていきたい。
【参加者からの質問】:私はパラスポーツを指導している者で、担当しているのは発達障害のある子どもたち。子どもの指導場面を一生懸命に見ている親もいれば、うつむいて座って携帯を触っていて、子どもをほとんど見ていない親もいる。子どもへの関心の持ち方が様々あることに戸惑っている。もしかすると、親のそういうあり方が子どもの特性に影響している可能性もあるのではないかと考えることもあるが、どうだろうか。
【荒金・古賀(回答)】:親の子への関心の向け方や表現の仕方は様々。でも、こうやって子どものことで時間をつくり、活動に参加されているので子どもへの強い気持ちがあると思う。子どもの特性から様々な経験をしてきたと思われる親の心情も配慮しながら関わるように努力している。子どもの姿を直視できない親の心情についても理解しようと努力しながら、子どもの強みやできていることなどの話を行いアプローチしている。

 

4. 栗脇 開世 (人間共生システム専攻 臨床心理学指導・研究コース)から「中学校夜間適応指導教室における集団の視点からの考察」について次の話題提供が行われた。

校内夜間適応指導教室Bは、毎週木曜日19:00〜21:00、場所は公立A中学校の心の教室・体育館。活動内容は、心の教室でおしゃべり・UNO・トランプなど。または体育館でバスケ・バトミントンなど、体育館の舞台で話す参加者もいる。Bの目標は、学校に行けるかどうかはともかく生徒が教室で元気に過ごせるようになることである。学生スタッフは基本的に生徒がやりたい遊びを尊重して一緒に遊ぶことが多いが、大体は生徒から遊びに誘うことは少なく、スタッフが「何する?」と聞いて、返答に応じた遊びや、スタッフの提案から遊びに繋がることが多い。その結果、自分からは遊びに誘えなかった生徒が、自分から遊びを提案したり他の生徒やスタッフを遊びに誘ったりするリーダーシップを発揮するようになる場合もある。その要因としては、(1) Bの中には小グループ(サブグループ)があること。このサブグループは、スポーツをするグループ、漫画・アニメ・ゲームなどのおしゃべりをするグループなど自然に形成される。自分がやりやすい人数規模のサブグループの中で自分がやりたい遊び・活動を主体的に行うことで、安心して主体性を発揮していく。(2) メンバーが多様であること。舞台上で作業をしている保護者、ふらっと来てふらっと帰る卒業生、途中で生徒の様子を見にくる担任の先生などの流動的な場の構造があり、色々な人が色々なことを思い思いに行なっている。これによって、生徒が自由に過ごしていいと感じやすく安心して過ごせる環境となっている。この2点によって、生徒ができる範囲(サブグループ)で主体性を発揮できるようになっていく。

【指定討論・縄田先生】:今回は、昼間のなじめない教室の代替として、開かれた流動的サブグループがあって、そこでなじんでいくというのは非常に良いなと思った。本来、目標があってそれに向かっていくのが課題集団。その課題集団にあって発揮されるのがリーダーシップである。ところがこの校内夜間適応指導教室は、そんなに課題集団よりも活動が強くないのかなと思った。特にリーダーシップという課題集団特有の要素をもってきた時に、サブグループでやれる範囲の主体性を発揮することをリーダーシップと言わなくてもいいのかなと思った。
【栗脇(回答)】:サブグループの中で発揮される主体性をリーダーシップと表現したが、それがどんな集団の時に用いられる用語なのか、よくわかってなくて使用していた。
【小澤先生】:四題を通して、心理学における集団とは?というテーマに関して、縄田先生に一言あればお聞きしたい。
【指定討論・縄田先生】:むしろ、院生の発表からの気づきだと思うが、心理学を足がかりにしつつもいろいろな集団の話題提供があった。修論を書くときに、集団を考える上では学問の壁がないと気づいて、自分は社会や人間を理解していく足がかりとなるものを研究しているということを理解してもらえれば嬉しい。

以上で2024年度「共生社会のための心理学」シンポジウムを終了した。