佐々木 玲仁准教授Reiji Sasaki
専攻 | 人間共生システム専攻 実践臨床心理学専攻 |
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部門 | 人間科学 |
コース |
修士:
臨床心理学指導・研究 博士: 臨床心理学指導・研究 |
講座 | 臨床心理学講座 |
九州大学研究者 データベース |
https://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K003559/index.html |
九州大学臨床心理学講座佐々木玲仁研究室 | https://www.sasaki.hes.kyushu-u.ac.jp |
心理臨床の実践の現場で使われている技法の中に、「描画法」といって来談した人に絵を描いてもらうという方法があります。これには色々な種類があってそれぞれにカウンセリングの中で役に立っているのですが、それらがどうして有効なのか、どんなふうに作用しているのかといった機序に関してはこれまであまり研究が行われていませんでした。そのしくみを知りたいと思ったのが研究のきっかけとしては一番大きいです。
テーマとしては主に「風景構成法」という方法を扱っています。この方法は、ある手順にしたがってサインペンとクレヨンのなどで風景の絵を描いてもらうというものです。この方法は、描き手と見守り手(施行者)との相互作用の中で描かれる、現象としてとても複雑なものです。これまで「風景構成法はどのように描かれるか」とか、「描かれたものをどう読み取るか」という研究はたくさんされていましたが、なぜそれがそう読み取れるのか、方法そのものがどういう性質を持つのかということについては、ほとんど扱われていませんでした。そういうところに面白さを感じたのと、誰かが研究しないとまずいんじゃないか(現場で実際に使われていますから)というふうに思ったので、手をつけることにしました。研究の方法はなかなか厄介なのですが、そういうことを考えるのも苦にならないので、自分に合っているという感覚的なものもあって研究テーマに設定しました。
ざっくり言えば質的研究です。「人が絵を描く」という複雑な現象は、数量化・指標化して見るだけでは分からないんです。指標化というのは、例えばある絵に描かれている木の数は何本か、などと絵の要素を分解して見ていく方法ですね。それで解るほど単純なものではないんです。そのために、描かれた絵だけではなく、絵を描いている場面そのものをできるだけ多面的に分析することで、この技法を理解しようとしています。ただ、質的研究でやるといっても数量的な方法を使わないということではなく、必要なら数字もどんどん使っていきます。
実際にカウンセリングをする面接室にと同様の場面を設定し、そこに被検者(描き手)に来てもらって、絵を描いてもらっています。
データから意味を読み出すのには、一般的に使われている表計算ソフトを意外に多用します。雑多なデータからある種の法則性を拾い上げるには、こういうソフトを手足のように使いこなすのが大事になってくるんですね。また、今は映像のデータを分析するためにELANというソフトウエアを勉強中です。それから、考えてみれば一番重要な道具は、調査を実施する面接室かも知れませんね。
データを分析する第一段階で、できるかぎり仮定を持ち込まないということです。約束事で勝負しない、という言い方もできます。臨床現場で起こることを研究するとき、ついつい自分の臨床実感を元に話を進めたくなるんですが、そうではなくてまずは調査場面でのデータから何が言えて何が言えないかをクリアに見極めていきたいと思っています。当たり前のことなんですけど。自分も臨床をやっているとそのあたりが甘くなってしまいそうになるときがあるので、まずはデータからいえることを何より大事にしていきたいです。
最もわくわくしたことは、データの処理していった結果、信じられないようなきれいな結果が出た時です。わざわざ解釈する必要がないほど明瞭にデータだけからものが言えたんです。全てのデータが一つの方向性を指し示し、羅列されたものから意味が立ち上がってきて、こんな仕掛けになっていたのか、と感動しました。最も落ち込んだことは、研究者ならみんなそうだと思うのですが、自信のあったデータを載せた論文があっさりリジェクト(掲載拒否)された時です(笑)。
人そのものが研究対象なので、印象的なことがたくさんありすぎて言いきれません。
研究者になるとしたら、今現在より暇になることはおそらくありませんから、この一瞬一瞬を大事にしてください。
今思い起こしてみると、ひたすら臨床と研究をしてました。起きている時間は何かしら勉強している、という感じだったと思います。あとは子育てですね。
自分野の中だけで考えていると、知らず知らずのうちにある種の定型的な思考に陥ってしまうことがあるんですね。そういうときに違う分野の人と会話すると、頭の中の今まで使っていなかった部分を刺激されて、いろいろ考え始めます。それは違う分野の人と会話しないと生まれてこないもので、そういうことがとても大事なんだと思っています。それに、自分の研究のことをよくわかっていて立ち位置が相対化されていないと、専門分野以外の人にも伝わるように言語化するというのは難しいんですね。自分にとって当たり前のことを敢えて言葉にするのは、そういう意味でとても勉強になります。ですから、いつもそういうことができるような軽やかな頭の状態にしておきたいと思っています。
風景構成法の研究で突きつめていっていることを心理臨床全般に適用するとどういうことが言えるかを考えていきたいと思っています。つまり、「心理臨床って何だろう」というコアな問いについて考えていくということですね。そして、そういうことを専門分野以外の人にもちゃんと伝わるようないい方で伝えるということにチャレンジしていきたいです。ある意味、論理的な言葉では必ずしも語り切れないことをやっているので、それを直接説明するだけでは伝わりにくいんですね。それをどう伝えたらいいのか、ということも考えていきたいと思っています。
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