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大学院人間環境学研究院

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教員情報
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當眞 千賀子教授Chikako Touma

専攻 都市共生デザイン専攻
部門 都市・建築学
コース 修士: アーバンデザイン学
博士: 都市共生デザイン
講座 計画環境系講座
九州大学研究者
データベース
https://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K003431/index.html

研究内容

*インタビュー形式でお答えいただきました。

 

―研究テーマの背景について教えてください。

私の専門領域は発達心理学です。人類は、個人が孤立して存在するのではなく、集団を作ってコミュニケーションをとりながら社会・文化的仕組みを作ることで生存を可能にしているという種としての特徴があります。私たちは、社会的な仕組みの変遷の歴史や何世代にも渡り蓄積してきた文化的営みをベースに生きているわけです。人の発達は、文化的営みに支えられながらまたそれを作っており、両者は切り離すことができないと考えています。発達心理学では長い間個人を単位として、発達的変化を捉えるという観点が主流でした。しかしその場合、社会・文化的営みの中で生きている、育まれているプロセスにアプローチすることが困難です。このような問題意識を支える発達心理学の理論は、ヴィゴツキーをはじめとしていくつかあります。私は、文化的営みが生まれてくるプロセスの中で、人がどう変化するのかを追うことで、個人と営みを切り離さずにその関係性に迫ることができると考え、「形成的フィールドワーク」という方法を試みています。形成的フィールドワークでは、具体的で切実な実践的ニーズと問いに応えるような研究者と現場の協働活動を通して、社会文化的営み(socio-cultural practice)、人と人とのかかわり(interpersonal process)、そして個人(individual sphere)という3つの発達の地平が相互に関わり合いながら変化する過程についての理解を得ようとしています。このことにより、基礎研究と応用研究という二分法的枠組みを超え、実践形成のプロセスを通してでないと見えてこない発達過程を追うことが可能になってきています。

 

一般的にはフィールドで起きていることを観察して記述しながら理解を深める方法(参与観察)がありますが、私はフィールドでの経験の中で、むしろ現場に関与しながら工夫をすることで、その実践がずっと豊かになるのではないかという場面にたくさん出会いました。また、現場にある課題そのものが、実践のあり方全体を考える上ではとても重要で、活かしようによっては、これまでとは違う水準で、コミュニティとして育つ可能性があると感じたのです。このような、現場での接触の中で感じた必要性も、形成的フィールドワークの背景となっています。形成的フィールドワークは、実践現場の人々との問題・課題の共有とそれを踏まえた実践の形成までを射程に入れたフィールドワーク研究の方法です。方法論として大事なことは、実践を形成しながら生まれてきた知恵を、現場に還流していくような研究の成果として残るように蓄積していくことです。

 

―保育所でプロジェクトをされていますが、子どもの研究をしているのですか。

保育所で形成的フィールドワークを展開していますが、子どもに限定して研究しているのではありません。プロジェクトの名前を「子育て、親育て、コミュニティ育て」としているように、3つの水準を同時に考えています。保育所は子どもだけで暮らしているのではありません。大人の保育士や保護者のかかわりがありますし、社会的状況の変化や政策とも無関係ではありません。子どもたちにとって保育所は一日の大部分を過ごす場所で、そこでの体験は子どもの成長に大きな影響力があります。これまで日本では、年齢ごとの発達段階に応じたケアと保育が良しとされてきました。一方で、学校教育があまり普及していないコミュニティや数世代前の日本の地域コミュニティの様子をみると、子どもたちの異年齢の関わりが日常的に当たり前のように存在していました。ところが、今ではそのような場面が見られる場所がすっかり少なくなっています。保育所はせっかく0才から6才までの子どもたちがいますが、年齢ごとに分けた保育の中で異年齢の関わりが生まれにくくなっています。また、大学生になっても赤ちゃんを抱いたことのない学生がいたり、第一子の出産に不安を抱えている若いお母さんがいたりという社会的な状況があります。人が人を育てるということは、本来はもっと無理がないもので、大人になる過程で体験が蓄積され、人を育むかかわり方が身につくような仕組みが働いていたはずです。このような文化的営みが消えていることに問題を感じています。

 

このプロジェクトでは、異年齢保育の導入を軸とした日々の実践を形成しつつ研究的視点でそのプロセスを記述しているという点に特徴があります。プロジェクトを通して、子どもたちだけが変化しているのではなく、大人たちも変化しています。大人と子ども、保育士と保護者、保育士同士の関係性、つまりinter personalな水準でも変わってきます。そしてこのように全てが動く中で、社会文化的な仕組みとしての保育実践も変化します。そうすると、異年齢で関わることをベースにした保育所での日常的なカリキュラムが、内側から作られていき、継承されるというものに育っていきます。最終的には文化的な営みとしての保育所での日常的な過ごし方が、ある種の‘ムラ(村)のように’なっていくのです。営みを育むことと、関係性が育つ、個が育つということが同時に動いていくような実践形成に取り組んだのが、今の保育所のプロジェクトです。プロジェクトでは、私が想像していたこと以上のことが起こっています。個人の伸びは関係性に支えられているし、仕組みとしての育ちも大きいです。子どもたちの学びもさることながら、大人の学びという面も非常に大きいのです。

 

―大学院生へのメッセージ

学問には、人を励ます力があると思っています。学び問う営みとしての学問の醍醐味を味わう悦びに触れることができますように。

 

―おすすめの文献

○バーバラ・ロゴフ(著)/當眞千賀子(訳)『文化的営みとしての発達』新曜社(2006)

○當眞千賀子(2004).問いに導かれて方法が生まれるとき―形成的フィールドワークという方法 臨床心理学 vol.4, no.6, 771-782.

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