内田 若希准教授Wakaki Uchida
専攻 | 行動システム専攻 |
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部門 | 人間科学 |
コース |
修士:
健康・スポーツ科学 博士: 健康・スポーツ科学 |
講座 | 健康・スポーツ科学講座 |
九州大学研究者 データベース |
https://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K004829/index.html |
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高校生の頃、先天的な脊髄の病気で障害のある友人がいました。修学旅行の一番の楽しみともいえるグループでの自由行動で、私は彼女と一緒の班になりました。班のメンバーで何度も話し合って、彼女と一緒に行動できるように計画をたてていたのですが、結果的に学校として安全に責任が持てないということで、彼女だけが親御さんと別行動を余儀なくされました。学校側の判断に納得ができず職員室まで乗り込み、先生たちとケンカまでしました。その後、大学で受けた講義で、「障害を負うとできないことに目が向いてしまうけれど、その人の残された機能で何ができるのかを考えていくことが大切」ということを学び、修学旅行の一件も、先生たちが彼女のできることに目を向けていたら、違う答えになっていたのではないかと感じました。ここが私の研究の原点であり、試行錯誤を重ねながら現在に至っています。
心の変化のプロセスや、その背景となる体験を踏まえて研究をしています。実際のフィールドで出会う人々のものの見方や行為はさまざまであり、その背後には多様な主観的立場と社会的背景があるので、これらの視点の多様性を考慮する必要があります。ですので、質的アプローチを用いて、包括的に現象を捉えるように工夫しています。
現在は、日本パラリンピック委員会や日本障がい者スポーツ協会と連携を図りながら、研究を行うことが多いです。実践研究においては、パラリンピック開催地や全国各地で開催される合宿地へも赴きます。
質的アプローチを用いた研究を行っているため、ソフトウェアやツールは使用しません。
大学院生の頃、障害のある方を対象にして質問紙調査を行いましたが、「すべての点で自分に満足しているか」「身体的外見に満足しているか」といった内容の質問紙は、対象者の方に不快な思いをさせる結果となりました。「こんなことを質問されるのは不愉快」といったコメントが、質問紙の中に書き込まれていました。誰かのために役に立てる研究をしたいと思ってきたはずが、自分の研究で誰かを傷つけてしまうのであれば、私の研究はいったい誰のためのものなのか、論文を書くための研究になっているのではないかと思い悩む日が続きました。そして、たどり着いた答えは、「対象者に寄り添った研究」のあり方を模索し続けるということでした。今ではこの経験が大きな財産となり、目の前にいる対象者にしっかりと目を向け、自分の研究者としてのあり方を問い続けながら、新しい知見や成果を提示する努力を怠らないことを心に留めて研究しています。そして、それをし続けている限り、ずっとわくわくしていると思います。
下記に記した障がい者スポーツセンターで指導員をしていたときのことですが、進行性の障害のため歩くことが困難になった男性と出会いました。その方は、もう一度歩くことを希望しておられましたが、医師からは100%無理と言われたと涙を流されました。いくつかの文献や本を読み、また自分の研究成果も応用しながらサポートを展開した結果、歩行バーを使ってではありましたが、その方はもう一度歩くことができました。その方の笑顔を見られたことがうれしく、また研究の成果が現場に還元される喜びも知りました。
つねにアンテナを張り巡らせ、フットワークを軽くして行動していってください。やる前・知る前から「必要ない」と決めつけるのではなく、多様な人、もの、価値観と出会い、研究者として、そして人間としての視野を広げていきましょう。
学費と生活費を自分で払っていましたので、とにかく生活が大変でした。生活費のために時給の良いアルバイトを探すことも考えましたが、「現場を知らない研究は、机上の空論にすぎない」という思いから、障がい者スポーツセンターでのスポーツ指導員のアルバイトを選びました。そこでの経験は、いまの私の研究者としてのスタンスだけでなく、人としての生き方にも多大な影響を与えました。指導員の方々および利用者の方々には、いまでも深く感謝しています。
分野が違えば、研究手法、着眼点、考察スタイルなど実にさまざまだと思います。そのような研究者同士が協働していくために、その多様性を受け入れ、それを成熟させていくプロセスの共有が大切だと思っています。
今後も国内・国外の関係機関と連携を図りながら、パラスポーツを通した共生社会の成熟に寄与できるような研究に取り組んでいきたいと思っています。
○「勇気づけの⼼理学増補・改訂版」、岩井俊憲、⾦⼦書房