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大学院人間環境学研究院

Faculty information

教員情報
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高橋 沙奈美講師Sanami Takahashi

専攻 人間共生システム専攻
部門 人間科学
コース 修士: 共生社会学
博士: 共生社会学
講座 共生社会学講座
九州大学研究者
データベース
https://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K007311/index.html

研究内容

研究テーマ設定の背景

現代ロシアとウクライナの抱える諸問題を正教会という切り口から考えることを目指しています。

 

日本において、ロシアは西欧近代の規範から外れた特殊な国家というイメージが強いと思われます。実際、ロシアでは正教を中心とした独自の文明観があるという主張がなされます。ロシア、あるいはその隣国であるウクライナでは、そうした「独自の文明」観と近代西洋的な価値規範のせめぎあいが顕著に見られます。

 

グローバルな規模で価値観が変化していく中で、ローカルな伝統はどのように利用されるのか、あるいはそうした伝統を担うアクターがどのような変化を遂げていくのかという問題が、今の私の関心の中心です。

 

研究手法

アーカイヴ(公文書・私文書)調査、インタビュー、参与観察を3本柱にしています。

 

ロシアでは、公官庁に寄せられた文書はほとんど廃棄されることなく、アーカイヴに保管されます。これらの中から時系列的に大切な事項やキーパーソンを浮かび上がらせます。そうして絞った事項について、刊行物やエゴ・ドキュメントを用いて複数の視点から明らかにします。また、存命の人物に対してはインタビューを行ったり、現在進行形の問題については参与観察を行うことで、実証的な調査を行うことを心がけています。

 

調査対象や調査地についての解説

研究対象である東方正教は、ビザンツ帝国で発展したキリスト教です。

 

社会主義時代の1960-70年代のことを研究していた頃は、正教会の文化遺産である教会建築やイコンなどの美術品、あるいはそれらを収蔵展示する博物館・自然公園を調査対象としていました。

 

現在は、正教会の信者や聖職者の方を主な調査対象として、20世紀以降に現れた正教会の聖人や聖地について研究しています。

 

分析のためのソフトウェアやツール

インタビューに際しては、昔からレコーダーを使っています。近年では、外国語の音声認識ソフトもたくさん出てきて、録音音源からテクストが簡単に得られるようになりました。それでも、現場で取ったフィールドノートに敵うものはないと思っています。

 

研究についてのこだわり

実際にかかわった個人の声にこだわっています。博論に対する評価の中で、60-70年代のソ連の人びとの生きた語りが再現されているというのがあり、とてもうれしかったです。同時に、一面的にならないよう、多層性・複数性に富んだアプローチを心掛けています。

 

研究生活で最もわくわくしたこと、逆に最も落ち込んだこと

現在進行形ですが、調査地に行って、これはと思うインタビューを取れる時が一番わくわくします。落ち込んだのは、ロシア語があまりにできなかったために、修士の入学試験に失敗したことです。

 

研究生活で出会った印象的な人物やエピソード

フィールドワークで出会った忘れられない人々については、すべて私の研究の中に書き込んできたつもりです。

 

研究生活は、私が研究をしていなかったら出会えなかったはずの素晴らしい人々との出会いの連続です。専門的知識、広い教養、独自の経験、何かしらの一癖を持った恩師、先輩、畏友、そして後輩に囲まれていることに、大きな刺激を受けます。比べて自分は…という自己卑下に陥りそうになることもありますが、憧れや驚きや発見で、人生は大忙しです(笑)。

 

大学院生へのメッセージ

何を当たり前な、と言われるかもしれませんが、少し背伸びして難解な本に挑戦されるといいと思います。難しい理論について勉強できる時間というのは、結構限られている上、大学院のうちに訓練した読解力はその後、必ず生きてきます(自戒を込めて)。

 

そして、外に出ること。知識を持って外へ出て、人と会えば、見えなかったものが見えたりして、研究テーマの発見や深化につながるはずです。

 

大学院生の時何をしていたか

最初に、ロシアに留学することを目標に、次にロシア語で自由にインタビューが取れる語学力を身につけることを目標に、最後に調べたことを論理的に論述できるだけの理論に対する知識と論述力を身につけることを目標に勉強を続けました。最後の目標はまだ達成されていないように思いますので…今後の課題でもあります。

 

学際連携についての思い

永年地域屋としてやってきて、歴史学から始まり、宗教学、文学、社会学、人類学の専門家と仕事をしてきましたので、ディシプリンを超えて対話をすることは私にとっての研究の醍醐味といえます。一方で、私から「地域」を取っ払ったら何が残るんだろうという不安も抱えています。ロシア・ウクライナ地域の専門家として要求される知識のアップデートをしながら、相変わらずのらりくらりとディシプリンの波間を漂っています。

 

今後の研究・実践活動について

九大での新しい環境は、私が今まで身を置いてきた研究環境や学術分野とは全く違うものです。まだ戸惑うことの方が多いのですが、新しいことにも挑戦しつつ、自分が今まで培ってきた経験や能力にしっかり足を付けてやっていきたいと思っています。

 

おすすめの文献

○遅塚忠躬『史学概論』東京大学出版会、2010年。

○オーランド―・ファイジス(染谷徹訳)『囁きと密告―スターリン時代の家族の歴史』白水社、2011年。

○Alexei Yurchak, Everything Was Forever, Until It Was No More: The Last Soviet Generation, Princeton and Oxford: Princeton University Press, 2006.

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